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最近の著作から 2007年度

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2007年

『環境リスクと合理的意思決定―市民参加の哲学』 シュレーダー=フレチェット著、松田 毅 監訳

『環境リスクと合理的意思決定―市民参加の哲学』 シュレーダー=フレチェット著、松田 毅 監訳

本書は、アメリカを代表する環境倫理学者による「リスク分析と合理的な意思決定の理論」に関する入門書である。科学哲学、倫理学、経済学、法学、統計学とリスク分析に及ぶ学際的内容の読み応えのある本格的な著作である。「リスク社会」の名の下に食卓で口にする食べ物の安全性など、身の回りに潜む多様なリスクをどう管理するが、という問題が、急速にクローズアップされる中、科学技術の負の側面と環境負荷の被害者に最もなりやすい人々の位置に身を置き、「環境正義」を実現すべきである、と言う筆者のメッセージは明確で力強い。なお神戸大学人文学研究科では2009年前期にシュレーダー=フレチェット教授の集中講義を予定している。

2007年11月 昭和堂 4,515円

『カラヴァッジョへの旅』 宮下 規久朗(単著)

『カラヴァッジョへの旅』 宮下 規久朗(単著)

本書はこの画家についての私の三冊目の著書である。前著以降に出た新資料や学説を多く取り入れ、新知見もいくつかちりばめた。とくに、凶暴で反社会的な人格破綻者だったこの画家に、なぜかくも静謐で感動的な宗教画を生み出すことができ、西洋美術史上最大の巨匠となりえたのか、という問題に自分なりに答えたつもりである。この画家の生涯はイタリアを北から南に縦断するものであり、作品も各地に散らばっている。私自身が長年カラヴァッジョの作品を見て歩いてきた経験から、そのときの印象や思い出も包み隠さずに書いたが、単なる紀行文ではない。各地に印された画家の足跡をたどり、思索しながらその作品世界の深奥に分け入る旅でもある。

2007年9月 角川学芸出版 1,785円

『江戸文学』36号 特集「江戸人の「誤読」」 田中 康二 監修

『江戸文学』36号 特集「江戸人の「誤読」」 田中 康二 監修

日本近世文学の専門誌『江戸文学』を監修する際に「江戸人の「誤読」」というテーマを設定しました。「誤読」というのは作者の意図からはずれた読みと見なされますが、「誤読」の中にこそ創造性があると言えます。また、「誤読」の偏差の大小によって、逆にその時代の思考法が浮き彫りにされることがあります。したがって、「江戸人の「誤読」」とは江戸人の思考法にたどり着く鍵であると言えます。本誌には、漢詩人の注釈書『通俗唐詩解』の解釈上の方法を闡明した田中康二「葛西因是『通俗唐詩解』の解釈戦略」のほかに、樋口大祐氏や佐藤光氏(元神戸大学准教授)等が創造的で意欲的な論文を寄稿しています。

2007年6月 ぺりかん社 2,100円

『増補改訂 ハプスブルクの実験』 大津留 厚(単著)

『増補改訂 ハプスブルクの実験』 大津留 厚(単著)

10年ほど前に中公新書で刊行した『ハプスブルクの実験―多文化共存を目指して―』の増補改訂版です。多文化、多民族、多言語の共存を巧妙な政治システムによって実現しようとしたハプスブルク帝国は第一次世界大戦を生き抜くことができずに崩壊しました。そのあとに実現した民族国家群はハプスブルク帝国を否定的に捉えることで、自分たちの存在を正当化しました。しかしその後のこの地域の歩みは苦難に満ちたものとなりました。21世紀を迎えて、この地域の多くはEUという政治的統合体に含まれることになりました。その時に当たってかつての政治的統合体としてのハプスブルク国家の有様はもう一度評価されるようになりました。本学人文学研究科が進める地域連携事業の成果を加えてグレードアップした新装『ハプスブルクの実験』、お楽しみください。

2007年6月 春風社 2,310円

『歴史家の遠めがね・虫めがね』 髙橋 昌明(著)

『歴史家の遠めがね・虫めがね』 髙橋 昌明(著)

「六〇話で綴る歴史の面白さ意外性を興味深く語ったエッセー。随所に最新の歴史学の知見を盛り込む」。恥ずかしいながら、編集者が書いてくれた帯の文句である。

タタキやヤキトリの誕生から、帝国憲法制定時の「臣民の権利」をめぐる論争など辛口の話もちゃんとある。日本の合戦の真実あるいは藩政時代の森林資源の保護も。神戸時代の坂本龍馬や、なんと神戸大学文学部も幾度か顔を出す。前身は筆者の郷里である高知新聞紙上で一年三か日続けた連載。ごった煮の雑炊か、話題豊富なグルメの食卓か、一度確かめられてはいかが。

2007年5月 角川学芸出版 1,575円

『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』 宮下 規久朗(共著)

『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』 宮下 規久朗(共著)

レオナルドの多方面にわたる業績について、美術史だけでなく、解剖学、数学、工学、天文・地理学、建築学、音楽史、演劇史、精神分析学、宗教学、政治・社会史などの面から各専門家がアプローチした本格的な論文集。日本におけるレオナルド学の、現在望みうる最高の成果を示す学術書である。最近レオナルド関係の本の出版があいついでいるが、私は、一般向けにも、やはり最近出版された『ダ・ヴィンチ 天才の真実』(宝島社)という本に、レオナルドやルネサンスについての解説を書いているので、あわせて読んでいただければ幸いである。

2007年5月 東京堂出版 3,990円

『風土記からみる古代の播磨』 坂江 渉(編著)

『風土記からみる古代の播磨』 坂江 渉(編著)

『播磨国風土記』は、8世紀の初め頃、中央政府によって作成・提出が命じられた国別の地誌の一つです。そこでは播磨各地の地名の由来を説明する際、地方色豊かな神の話や説話などが引用されています。それによると古代の播磨に暮らす人々の生活や信仰、自然との関わり方などがみえてきます。本書ではそうしたテーマについて、文学部の地域連携事業に関わった8名の執筆者が分析した結果を、合わせて40本以上の論考として提示しました(すべて読み切り)。本書を読んでいただくことを通じ、播磨古代史への理解が深まるともに、風土記に関わる地域遺産を活かしたまちづくりが進めば幸いと考えます。

2007年3月 神戸新聞総合出版センター 1,575円

『越境する移動とコミュニティーの再構築』 佐々木 衞(編著)

『越境する移動とコミュニティーの再構築』 佐々木 衞(編著)

トランスナショナルな移動によってエスニシティの認知が変容し、コミュニティが再構築される過程を、東アジアをフィールドに実態的に研究したものである。北東アジア(中国:青島、韓国:ソウル)と東南アジア(タイと近隣諸国の国境地域)とを比較対照し、地域の歴史的文脈の中から分析する理論枠組みを検証している。

2007年3月 東方書店 3,780円

『植民都市青島 1914-1931―日・独・中政治経済の結節点―』 ヴォルフガング・バウワ-、大津留 厚 監訳、森 宜人、柳沢のどか訳

『植民都市青島 1914-1931―日・独・中政治経済の結節点―』 ヴォルフガング・バウワ-、大津留 厚 監訳、森 宜人、柳沢のどか訳

本書は本学人文学研究科森紀子教授を中心とした青島に関する総合的研究の成果の一部です。青島は19世紀の末にドイツの植民地になったあと、第一次世界大戦でここを占領した日本の統治下に置かれ、1922年に中国に主権が返還されました。その後も日本で捕虜になっていたドイツ人が戻ってきて経済活動を再開し、日本も経済活動を活発に展開します。日本、ドイツ、中国3者のトライアングルの中におかれた大戦間期の青島の経済発展を、ドイツ語と日本語の史料を駆使して描いた本書はこれまでの研究の空白を埋め、乗アジアの現代史に新たな光を当てるものです。御一読下さい。

2007年2月 昭和堂 4,200円

『オペラのイコノロジー3 《魔笛》―〈夜の女王〉の謎』 長野 順子(単著)

『オペラのイコノロジー3 《魔笛》―〈夜の女王〉の謎』 長野 順子(単著)

モーツアルト最後のオペラ《魔笛》は、メルヘンのなかに啓蒙主義や神秘思想が含まれる謎の多い作品として、これまでさまざまな解釈が試みられてきた。本書は、イタリア・オペラが隆盛したバロックと、ナショナリズムの台頭する近代との狭間に生まれたドイツ語オペラを、啓蒙思想とその他者のせめぎあう複合空間と捉え、古代神 話やキリスト教との関わり、フリーメイソン的要素、民話や道化劇の継譜、舞台のスペクタクル性等について、独自の解釈を提示した。とくに、冥界からやってきた二人の女性〈夜の女王〉とその娘バミーナを軸にすえて、混沌と闇を含み躍動する多層的なイメージと音の世界を読み解いたユニークな〈魔笛〉論である。

2007年1月 ありな書房 3,780円

『食べる西洋美術史―「最後の晩餐」から読む』 宮下 規久朗(単著)

『食べる西洋美術史―「最後の晩餐」から読む』 宮下 規久朗(単著)

食と美術の関係について考えたわが国ではじめての論考。かつて文学部のホームページに、「これが授業だ!」というコーナーがあり、それに架空の授業の記事を書いたのだが、そのときも食と美術の問題を扱った。本書ではより体系的に、西洋において食事や食材の表現が美術の中心主題であり続けたのはなぜか、という点をめぐり、キリスト教に裏打ちされた西洋特有の思考法、また東洋とは異なる西洋美術のあり方を浮かび上がらせた。美術以上に食べることに興味のある私自身、楽しみながら』気に書いたのだが、今までにない視点の異色の美術史として、朝日・読売・日経など各紙の書評や多くの雑誌に好意的にとりあげられ、予想以上に多くの読者を得ることができた。

2007年1月 光文社新書 924円

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