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最近の著作から 2008年度

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2008年

『ポール・ヴァレリー 1871‐1945』 ドニ・ベルトレ著、松田浩則(単独訳)

『ポール・ヴァレリー 1871‐1945』 ドニ・ベルトレ著、松田浩則(単独訳)

本書は、ジュネーヴ大学のヨーロッパ学院で政治学を講じるドニ・ベルトレによるポール・ヴァレリー(1871‐1945)の伝記である。従来、ヴァレリーはその青春の書『ムッシュ・テストとの一夜』(1896)のインパクトがあまりにも強かったぜいか、「地中海的な知性の人」といった、かなり歪曲されたイメージでもって語られることが多かった。ベルトレは、ヴァレリーの日記『カイエ』や未公刊の資料などにも丹念にあたりながら、ヴァレリーの官能的経験がそのエクリチュールにどのような影響をあたえたのか、さらに、1920年代以降、国際連盟の知的協力委員会やパリの社交界などを舞台にどのような「精神の政治」を推進していったのかを鮮やかな手つきで明らかにすることによって、従来のヴァレリー像を夫いに刷新することに成功している。なお、本書は朝日新聞(2009年1月18日、柄谷行人)、毎日新聞(3月15日、鹿島茂)、図書新聞(3月21日、鈴村和成)などの書評で取り上げられた。

2008年11月法政大学出版局 9,240円

『太平記を読む』 市沢 哲(編著)

『太平記を読む』 市沢 哲(編著)

『太平記』は鎌倉幕府滅亡から南北朝内乱を経て、室町幕府体制が安定に向かう激動の14世紀を描いた作品で、『平家物語』と並ぶ軍記物語の双壁です。本書はこの『太平記』を、東アジアを含めた14世紀の政治的、思想的、地理的空間軸と、長きにわたる軍記物語の展開という時間軸の交差のなかに位置付けようとする試みです。具体的には、(1)『太平記』における史実と虚構、(2)『太平記』を支える思想、(3)軍記物語の歴史上における『太平記』の特色、の三つの視点を設定し、(1)では政治と戦争、(2)では仏教、儒教、怪異現象、東アジア世界との交流、(3)では軍記物の歴史における『太平記』の独自の位置を追究しました。日本史、文学、宗教史、思想史、対外交流史の気鋭かつ個性的な執筆者が、それぞれの立場から『太平記』を論じ、『太平記』から14世紀という時代を語っており、いずれの章も読み応えは十分です(国文専修の樋口大祐先生も執筆して下さいました)。ある人は本書を『太平記』をリングにした「バトル・ロワイヤル」と評してくれました。とてもうれしい評価でした。

2008年11月、吉川弘文館 2,800円

『アジア系アメリカ演劇―マスキュリニティの演劇表象』山本秀行(単著)

『アジア系アメリカ演劇―マスキュリニティの演劇表象』山本秀行(単著)

本書は、アジア系アメリ力演劇を論じた本邦初の本格的研究書です。マスキュリニティ(男らしさ、男性性)という点から、「M・バタフライ』で知られるデイヴィッド・ヘンリー・ホワンのほか、フランク・チン、フィリップ・カン・ゴタンダ、チェイ・ユウ、ダン・クワンなど主要なアジア系アメリ力人男性劇作家の作品を論じています。巻末には、「補論:アジア系アメリ力演劇概観」「アジア系アメリ力演劇関係文献案内」「アジア系アメリ力演劇年表」を収録し、この分野になじみがない読者にも、読んでもらえるようにしています。アジア系アメリ力演劇のみならず、アメリ力演劇、文学、文化、社会、そして、ジェンダー論やオリエンタリズムなどに興味を持っている方にもぜひ読んでいただきたい本です。なお、関連文献として、エレイン・キム著『アジア系アメリ力文学―一作品とその社会的枠組』(共訳書、世界思想社)、アジア系アメリ力文学研究会編『アジア系アメリ力文学―一記憶と創造』(共著書、大阪教育図書)も併せてお読みいただくことをお勧めします。

2008年10月、世界思想社 2.520円

『ネーミングの言語学―ハリー・ポッターからドラゴンボールまで―』 窪薗晴夫(単著)

『ネーミングの言語学―ハリー・ポッターからドラゴンボールまで―』 窪薗晴夫(単著)

ミッキーマウスはどうして「ミッキー」という名前なのか?クリスマスの「赤鼻のトナカイ」はどうして「ルドルフ」と呼ばれているのか? 「トムとジェリー」ではどうしてトムが猫で、そのトムの名前がネズミのジェリーよりも先に来るのか?このようなキャラクター名は恣意的につけられているように見えて、その背後には言語構造や規則が大きく関わっていることが多い。本書は英語と日本語の人名(キャラクター名、芸名、愛称)や会社名などを題材に、ネーミング(命名)と言語構造規則の関係を考察した本である。ミッキーの秘密が解けると、八リー・ポッターに出てくる「嘆きのマートル」「ほとんど首無しニック」などの人名や、「禁じられた森」「暴れ柳」「魔法省」「忍びの地図」「逆転時計」といった名前の謎も解ける。日本語では、アニメ・ドラゴンボールに登場する「サイヤ人」「魔導師バビディ」「魔人ブウ」「魔界の王ダープラ」などの名前がどのようにして作り出されるか、どうして「魔人プウ」の生まれ変わりが「ウーブ」という名前なのかなどという疑問も氷解するはずである。

2008年10月、開拓社 1,600円

『モダン都市の系譜―地図から読み解く社会と空間―』水内 俊雄・加藤 政洋・大城直樹(共著)

『モダン都市の系譜―地図から読み解く社会と空間―』水内 俊雄・加藤 政洋・大城直樹(共著)

街を歩けば,その都市独特の景観や雰囲気に接することができます。しかしそれらがどのようにして醸成されてきたかを知る機会はそう多くはないでしょう。本書はそれぞれ来歴の異なる京都・大阪・神戸といった大都市を対象に,近代都市としてそれらがいかに成立し展開していったかを地図をもとに読み解いていくものです。多くの章に「持論」を設け,気軽に読めるよう配慮しています。それによって中心市街地や郊外住宅,バラック・スラム,スプロール,盛り場・花街・繁華街といった場所の系譜、工ス二シティといったトピックが都市計画と社会政策の問題と絡められ,都市の全体的構造と関係づけられながら時代順に明らかにされていきます。

2008年5月 ナカニシヤ出版 2,940円

『ことばの力を育む』 大津 由紀雄・窪薗 晴夫(共著)

『ことばの力を育む』 大津 由紀雄・窪薗 晴夫(共著)

新しい小学校学習指導要領では「外国語活動」が必修化され、そこでは、ことばの楽しさ、豊かさに気づき、言語活動を充実させることが強調されている。しかし、ことばの楽しさや豊かさに気づかせるのは、外国語より母語の方がはるかに効果的であると私たちは考える。異文化間コミュニケーションという問題であっても、その原点は日本語の多様性(たとえば方言問の違い)を教えることにあると私たちは考えている。子どもたちは無意識のうちに母語の知識を身につけているが、その豊かさと奥深さには気づいていない。この本は、子どもたちをことばの世界へ誘い、かれらが自らその隠された神秘を探る楽しさと出会うことを目指している。

2008年4月 慶應義塾大学出版会 1,680円

『刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ』 宮下 規久朗(単著)

『刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ』 宮下 規久朗(単著)

本書は、近代の日本人の裸体観や身体観の変容を軸に、風俗としての裸体と芸術としてのヌードとの複雑な関係や、春画や生人形といった伝統的な日本の裸体表現と近代のヌード芸術との相克、刺青とヌードとの関係などについて本格的に考察したものである。私のはじめての日本美術に関する著書であるが、実はこのテーマは私の原点であり、20年近く前に書いた長いデビュー論文が母胎となっている。今回このテーマを改めてじっくり再考し、新たに資料を調査して一冊に書き下ろすことができた。青春時代から背負っていた荷をようやく降ろした心境である。すでに、「今後、研究の底本として機能する内容」(日本経済新聞)という評をはじめ、各新聞雑誌の書評でとりあげられた。

2008年4月 日本放送出版協会 1,019円

『モディリアーニ モンパルナスの伝説』 宮下 規久朗(単著)

『モディリアーニ モンパルナスの伝説』 宮下 規久朗(単著)

首の長い人物像で知られる画家モディリアーニについて書き下ろしたもの。この画家は近年ますます人気があるが、一般的な人気の割には欧米でもまともな美術史研究の対象となることは少なかった。本書では、モディリアーニの作風の成立過程を追い、絵画と彫刻の代表作を検討しながら、イタリアの伝統美術とのつながりだけでなく、プリミティヴィスムや同時代のバリの前衛美術との関係、さらに従来誰も指摘していなかったジャポニスム的要素について考察した。日本との関係や日本の画家に与えた影響についても紹介している。図版がどれも美しいだけでなく、モディリアーニについてはじめて美術史的にきちんと考察したものであると自負している。

2008年3月 小学館 1,890円

『モディリアーニの恋人』 橋本 治・宮下 規久朗(共著)

『モディリアーニの恋人』 橋本 治・宮下 規久朗(共著)

画家モディリアーニの恋人ジャンヌ・エビュテルヌは、モディリアーニの晩年の作品に登場する憂いを帯びた美女のモデルとして知られるが、画家が病死した直後、アパートの窓から身を投げて後追い自殺したことでモディリアーニ伝説を完成させた。近年公開された新資料によれば、彼女は従来考えられていたような受身の弱い女性ではなく、強い意志をもった本格的な画家であり、その作品はときにモディリアーニにも影響を与えたということがあきらかになったのである。本書は、画家と恋人とのこうした関係にスポットを当て、モディリアーニ芸術の成り立ちやジャンヌのイメージについて、私の解説と作家の橋本治のエッセイで構成したものである。

2008年3月 新潮社 1,470円

『一九三〇年代と接触空間―ディアスポラの思想と文学』 緒形 康 編

『一九三〇年代と接触空間―ディアスポラの思想と文学』 緒形 康 編

本書は、共同研究「接触空間における危機と共生の文化研究――海港都市・神戸と文化混清の諸経験」の研究成果をまとめた学術論文集である。同研究は、平成一七年(二〇〇五年)から一九年(二〇〇七年)にかけて科学研究費補助金(基盤研究(B))の交付を受けた。

研究の総合テーマは、一九一四年から四五年におけるモダニズムと総力戦体制の時代における神戸の文化研究である。この研究を通じて、当該期の神戸の危機と共生の諸経験を検討しながら、「接触空間」(contact Zone)という新しい概念を用いて、そうした文化危機を新しい共生へと止揚するための、より一般的な文化認識の視座を見出すことができたと思っている。

2008年3月 双文社出版 6,500円

『 Asymmetries in PhonoIogy: An East-Asian Perspective 』 窪薗 晴夫(編著)

『 Asymmetries in PhonoIogy: An East-Asian Perspective 』 窪薗 晴夫(編著)

人間の体には目や耳、腕のように左右対称になっている器官がいくつもある。これらは一見すると対称的であるように思えるが、実際にはそうでないことも多い。機能まで考えると非対称性(asymmetry)はさらに大きくなる。言語構造にもそのような非対称性が随所に見られ、言語の仕組みを考える上で重要な示唆を与えてくれるものとして注目されている。このような研究動向を踏まえて、本書は日本語や韓国語をはじめとする諸言語における音韻構造の非対称性を分析した論文10編を収録した。分析の対象となる現象や研究のアプローチは多様であるが、いずれの論考も非対称な音韻現象を具体的に記述し、非対称性が生み出される原理を考察している。

2008年2月 くろしお出版 3,990円

『日本の家族とライフコース―「家」生成の歴史社会学―』 平井 晶子(単著)

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日本の家族はその変化が叫ばれて久しい。では、私たちがこれこそ日本的な家族であると思っている家族はどのようなものなのか。それはいつ、なぜ確立したのか。伝統的な家研究と、歴史人口学に基づくライフコース研究を統合するという新しい方法から、この古くて新しい問題を再考したのが本書である。学術的には、家論や家族変動論の再構築をめざすものであるが、本書の意義は狭い専門分野に限定されるものではない。伝統的な家族のあり方や、かつての人々のライフコースの具体的な歩みを知ることは、先の見えない現在にあって、自らの家族イメージやライフコースを考える新たな視点を提供すると思われるからである。

2008年1月 ミネルヴァ書房 5,250円

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