神戸市北区山田町藍那における連携事業

 本事業は、2004年5月、国営明石海峡公園神戸地区(以下神戸地区。2012年度一部供用予定)の整備に伴う、国土交通省近畿地方整備局国営明石海峡公園事務所からの受託研究事業として始まりました。神戸地区は、神戸市北区山田町藍那地区の里山を園地に、「農業空間として維持されてきた豊かな里山を、守り育てながら身近な森としての活用を図る」という基本方針のもと、里山の自然・景観・歴史文化を活かした公園を目指して整備が進められています。これを受けて、本事業では、藍那地区、とりわけ里山の歴史的環境の変遷を明らかにするとともに、その成果に基づき、神戸地区における歴史的遺産の活用のあり方についての提案を行うことを主たる目的として調査研究を進めてきました。
 受託研究の最終年度となった2007年度までに行ってきた事業内容は以下の通りです。まず、調査として、藍那地区に伝来した、総点数6300点余に及ぶ「藍那村文書」を始めとする史料調査、地名・耕地・水利・生業等に関する地区住民からの聞き取り調査、藍那の里山景観の大きな特徴となっているため池や古道等の現地踏査を実施しました。そして、これらの調査をふまえて、神戸地区内のため池や古道に関する研究、同じく江戸時代〜現代の景観変動の研究、昭和30年代の藍那地区の生業の復元研究等を行いました。さらに、こうした調査研究成果の神戸地区への活用・還元として、ため池を含む様々な歴史的遺産に掲示する看板や古道のウォーキングマップ等を作成・提供したほか、神戸地区内で例年行われているイベント「あいな里山まつり」(主催:あいな里山まつり実行委員会/国営明石海峡公園事務所)に参加、調査研究成果を紹介するパネルの出展、研究報告、歴史ハイキング等を行いました。また一方で、ほぼ毎年、藍那地区の公民館で地区住民向けの研究報告会を実施し、地元の方々への調査研究成果の還元にも努めてきました。
 先に触れたように、本事業は、受託研究事業としては2007年度をもって終了しましたが、この間に得た、藍那地区の歴史に関する調査研究成果の蓄積と地区住民の方々とのつながりを活かすべく、2008年度以後も、当センター独自の事業として継続されることになりました。そこでは、公園事務所・神戸地区との協力関係も維持しつつ、藍那地区との連携事業としての展開を目指しています。

史料調査

 古代・中世から近代にわたる、藍那地区とりわけ里山の歴史的景観の形成と変遷を明らかにすべく、当地区に関する文献史料の調査を進めています。まず、古代中世については、藍那地区を単位として史料調査を行うことは限界があるため、当地区を含んで成立していた「山田荘」の範囲を対象に、刊本を中心とした史料収集を進めています。
 また、近世・近代に関わっては、地元で近世初期以来永年にわたって保存・管理されてきた、総計6300点以上に及ぶ文書群、「藍那村文書」が遺されています(藍那自治会所有。なお、うち1点中世文書を含む)。本文書は、その性格の点でも、分量的にも、本研究の最も基礎的な史料たるべきものです。そこで、藍那自治会のご協力のもと、その詳細な史料調査を進めています。

ため池の調査・研究

 公園予定地を含め、藍那地区には現在、100を超えるため池が存在しています。これらのため池は、地区の人々の永年の耕地開発と営農を伝える歴史的遺産であるとともに、今後展開される公園内において、格好のランドマークとしての意義を持つであろうと考えられます。そこで、こうしたため池の築造・維持に関わる歴史を明らかにし、そこで得られた成果を公園内において何らかの形で活用することを目標に、重点的な調査・研究を進めています。昨年度は、「藍那村文書」の中からの関連史料の発掘に務め、その成果の一環として、2004年11月27日、公園予定地で催された「あいな現地サロン」で「あいなのため池と農地開発に関する史料」と題する報告を行ないました。

地元での研究報告会の実施

 本研究は、基本的には国営明石海峡公園事務所からの受託事業ですが、研究成果については積極的に地元に還元し、住民の皆さんと交流を深めるとともに、住民の方々がより深く地域の歴史を知り、地域作りにも生かしていくきっかけともなることを目指しています。その一環として、2005年4月16日に、藍那公民館で地元を対象とした報告会を行いました。会では、ため池の調査・研究の成果を「藍那のため池の歴史について」と題して報告し、その後、意見交換を行いました。今後もこのような報告会を定期的に行っていくことを予定しています。

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