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最近の著作から

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2015年

バーバラ・ピム著 芦津かおり訳『幸せのグラス』

『幸せのグラス』

バーバラ・ピムといえば、20世紀中盤の英国中流階級の静かな生活をユーモアと諷刺まじりに描く風習喜劇作家としてひろく認知される。第5作に当たる『幸せのグラス』(1958年)は、第2作『よくできた女』(1952年)とともに、前期ピム喜劇の双璧的存在としてきわめて評価が高い。語り手をつとめるヒロインは、ロンドン高級住宅街で役人の妻として何不自由ない生活を送る、33歳の美しきウィルメット。そっけない夫に不満をかかえ、人生にいささか退屈した彼女の前に、謎めいた美男子ピアーズが現れる。自分の不倫願望には無自覚のまま、ウィルメットは彼に惹かれ、のめり込んでゆくのだが……。欠点だらけの、でもなぜか憎めぬヒロインの<ダメ女>ぶりに共感したりツッコミを入れたり、彼女の曇った目に映る「現実」と小説世界の現実のズレを意識し、その齟齬がもたらすアイロニーを楽しんだりするのも、本小説を読む醍醐味であ
           る。(芦津かおり)

2015年5月、みすず書房

川原靖弘・片桐祥雅・喜多伸一他著『生活環境と情報認知』

『生活環境と情報認知』

放送大学が2015年度から放送している授業「生活環境と情報認知」の教科書で、情報通信技術と人間生活との多様な関係を扱っている。この授業はオムニバス形式で行われ、神戸大学からは喜多のほかシステム情報学研究科の羅志偉教授が講師を務めている。喜多はそのうち「感性と心理 ―感性情報の計測―」と「生活環境のデザイン ―感性情報の提示と選択―」の2項を担当しそれぞれの章を執筆した。「感性と心理」の章では、感覚系の機能計測について心理物理学と脳科学の観点からの手法を紹介した。また「生活環境のデザイン」の章では、感性情報とデザイン、質感知覚、アフォーダンス、個人や集団が行う判断と決定の問題を紹介し、心理学の研究成果が情報通信技術の開発に貢献していることを示した。(喜多伸一)

2015年3月、放送大学教育振興会

近藤和彦、小山晢、池田嘉郎、佐藤昇他著『ヨーロッパ史講義』

『ヨーロッパ史講義』

本書は、オムニバス講義の体裁をとったヨーロッパ史に関する論集です。12名の研究者がそれぞれ得意のトピックに関して、最先端のオリジナルの研究をもとにしながら、専門外の方々、一般の読者諸氏にも理解してもらえるように、議論を展開しています。通史ではありませんから、網羅的な記述ではありませんが、紀元前5世紀のギリシア世界から20世紀のヨーロッパまで、広範な時代と地域がカバーされています。各章は、各々の時代・地域の特徴を捉えたトピック、とりわけ、時代毎に変化する人と人の結びつきやアイデンティティ、政治や世界観をめぐる諸問題が扱われ、旧来の歴史学とは異なる、近年の研究動向を反映したアプローチで議論が深められています。(佐藤昇)

2015年5月、山川出版社

長坂一郎著『クリストファー・アレグザンダーの思考の軌跡』

『クリストファー・アレグザンダーの思考の軌跡』

「パターン・ランゲージ」で知られる20世紀最大のデザイン理論家・建築家クリストファー・アレグザンダーの最初期から現在までの試行錯誤の軌跡を丹念にたどることにより、デザインとはそもそもどういう行為なのか、私たちは何を目指して環境をデザインしているのかについてアレグザンダーとともに考えていく本。これまでのアレグザンダーについての著作は、ほぼすべて「パターン・ランゲージ」に焦点を当てて書かれていたのに対し、本書はアレグザンダーがパターン・ランゲージを構想する前の認知科学的な研究から最新作である『バトル』までの彼のデザイン理論の全貌を明らかにするものである。(長坂一郎)

2015年7月、彰国社

続日本紀研究会編 古市晃他著『続日本紀と古代社会』

『続日本紀と古代社会』

大阪を拠点とする日本古代史の学会である続日本紀研究会の会誌『続日本紀研究』刊行60周年を記念する論文集。古墳時代から平安時代を対象とする論文24篇を収録。古市「住吉信仰の古層」は、住吉大社に伝来する『住吉大社神代記』の分析などから、大阪湾岸の住吉神祭祀の起点を津守氏に求める通説を批判。津守氏がむしろ6 世紀初頭の継体朝以降の新興氏族であり、それ以前から住吉神につながる海神祭祀を担っていたのは、同地で海人集団を統率する阿曇氏であったこと、阿曇氏と5世紀における倭王権最有力の豪族である葛城氏が密接な関係にあったことを指摘し、5・6世紀という国家形成史における大阪湾岸の地域社会の動向と、中央支配者集団の統合過程との対応関係を主張している。(古市晃)

2014年2月、塙書房

中尾芳治・栄原永遠男・古市晃他著『難波宮と都城制』

『難波宮と都城制』

飛鳥・奈良時代の都城遺跡、難波宮跡(大阪市中央区)の発掘調査60周年を記念する論文集。難波宮は当初、正確な所在地すら不明であったが、調査を主導した山根徳太郎とその後継者たちの努力により、その様相がしだいに明らかになりつつある。本論文集には、考古学、日本史学、東洋史学、建築史など、専門分野を異にする研究者が結集し、最新の研究成果を紹介する。古市「難波と仏教―蘇我氏・ミヤケ・百済系渡来集団―」では、6世紀後半から7世紀前半の段階で、難波に倭王権の支配拠点(ミヤケ)が置かれるに際しての蘇我氏の主導性、及びミヤケと仏教の親近性を指摘し、それが北部九州から瀬戸内海沿岸地域にかけての、蘇我氏による百済系渡来集団の掌握と結びつく動向であったことを指摘した。(古市晃)

2014年8月、吉川弘文館

舘野和己・古市晃他著『日本古代のみやこを探る』

『日本古代のみやこを探る』

日本の古代都城・都市研究を牽引してきた舘野和己氏を中心とする研究者29名による論文集。対象とする「みやこ」は飛鳥以前の段階から平安京に及び、検討内容も都城の他、寺院、工房、葬地など「みやこ」を構成する多岐にわたる。古市「穴穂部王の権益と拠点―石上・佐保・三輪―」は、聖徳太子(厩戸王)の生母として知られる穴穂部間人女王、及びその弟の三枝部穴穂部王という2人の王族が有する、アナホやハシヒト、サイグサなどの名号を手がかりに、6世紀の王族がその拠点に有した権益と、それをめぐる諸氏族の関係の展開を検討。(古市晃)

2015年6月、勉誠出版

フリードリヒ・デュレンマット著 葉柳和則、増本浩子他訳『デュレンマット戯曲集 第3巻』

『デュレンマット戯曲集 第3巻』

スイスの国民的作家デュレンマットの作品をまとまった形で日本の読者に紹介する初の試みとして、デュレンマット研究会のメンバーが2012年から戯曲集全3巻を翻訳・出版する計画だったものが本書で無事に完結した。本書には初演の失敗によってデュレンマットの作家人生を大きく変えることになった喜劇『加担者』以降の後期の戯曲4編が収録されており、いずれも中期までの作品とは一味違う実験的な作品になっている。翻訳者による収録作品についての詳しい解題のほか、「デュレンマットの演劇論」、「デュレンマットとブレヒト」等、充実した解説群と年譜も付されており、戦後のドイツ語圏における演劇に関する格好の概説書ともなっている。(増本浩子)

2015年6月、鳥影社

松田毅編著 茶谷直人・長坂一郎他著『部分と全体の哲学――歴史と現在』

『部分と全体の哲学――歴史と現在』

近年、分析哲学では「形而上学」が復活している。その中で「存在論」と「メレオロジー」が重要な役割を果たしている。本書はこの動向を踏まえ、第一部「部分と全体の存在論――歴史的視点から」として、古代とアリストテレス、中世とトマス・アクィナス、近世とライプニッツそしてフッサール現象学を論じて哲学史的見通しを与えた後、第二部「メレオロジーとオントロジー――現代的展開から」で分析的形而上学の存在論を二分する「四次元主義」と「三次元主義」を論じると同時に、応用的観点から「虹と鏡像の存在論」とデザインのオントロジーの主題に切り込み、メレオロジーとオントロジーの可能性を探索している。最後に、「メレオロジーの論理学」のあらましを扱うことでその形式的側面にも留意した。人文学研究科の教員3名を含む、ワークショップMOWを活用した共同研究の成果から、読者は時代を横断する研究と討議の醍醐味を味
           わうことができるだろう。(松田毅)

2014年11月、春秋社

エリック・ファーユ著 松田浩則訳『わたしは灯台守』

『わたしは灯台守』

本作品は、2010年に『長崎』でフランス・アカデミー小説大賞を受賞したエリック・ファーユが1997年にジョゼ・コルティ社から出版した作品集で、翌98年ドゥ・マゴ賞を受賞した。ここには表題作をはじめ9編の中短編が収録されている。いずれの作品にも、世間の無理解と嘲笑をものともせず、誘惑的な順応主義と必死で戦い、あらゆる境界線を踏み越えようとする主人公たちの渾身の「ノン」がこだましている。彼らは間違いなく「危険人物」であり、「絶滅(危惧)種」なのだ。読者はそうした彼らの奇想天外な戦いぶりに圧倒されつつ、伝統的な小説作法からあえて逸脱し、時間と空間を自在に横断するファーユの巧みな語り口の生み出す不思議な優しさと静謐さとに包み込まれていくだろう。「週刊読書人」(2014年11月14日号)に野崎歓氏による長文の書評が掲載された。(松田浩則)

2014年8月、水声社

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