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国際ワークショップ「ディコロナイゼーションと他者」

2022年3月24日、神戸大学人文学研究科「他者をめぐる人文学研究会」主催で、「ディコロナイゼーションと他者」がオンライン開催された。

人文学研究科の大学院生を中心に活動を続けてきた「他者をめぐる人文学研究会」はロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のグリゼルディス・キルシュ(Griseldis Kirsch)准教授との共同事業として2017年以来国際ワークショップを継続的に開催しており、今年で第6回目を数える。

今回のワークショップでは、「脱植民地化(ディコロナイゼーション)」という問題を芸術学、哲学、文学、メディア論などを専門とする研究者らが検討した。

第1部では、研究会メンバーによる研究報告が行われた。本ワークショップのコーディネーターであるトーマス・ブルック氏(Thomas Brook) (人文学研究科博士課程後期課程、芸術学) の報告「“colonialism”の固有性について――水村美苗『私小説from left to right』と英訳An I-Novelを題材として」では、欧米において近年気運の高まりを見せる脱植民地化をめぐる議論が日本などにおいては盛んになされているわけではないという実情を指摘したのち、普遍概念としての「脱植民地化」の適用可能性の再検討を念頭におきつつ、米国在住歴がある日本人作家水村美苗の植民地観の紹介や作品分析を通じて、「植民地化」に向けられる視線の複数性という問題を論じた。

奥堀亜紀子氏(PD、神戸大学、哲学)の報告、「「祖国」にまつわる感情を探る――金時鐘の「クレメンタインの歌」を出発点にして」は、日本植民地時代の朝鮮半島で生まれ、戦後日本で作品を発表した詩人金時鐘の心情面における「脱植民地化」に、日本に渡る際に生き別れとなった家族との経験やその思い出が大きな影響を与えたことを示した。また、より射程を広げた、「慣れ親しんだものを失くした者」にとっての「家族という存在」をめぐる問いへと議論を展開した。

第2部では、増本浩子教授(人文学研究科、ドイツ文学)とグリゼルディス・キルシュ教授による特別講演が行われた。増本教授の講演「スイスの精神的国土防衛と文学におけるアルプスの表象――デュレンマットの『チベットの冬戦争』を中心に」では、スイスのナショナル・アイデンティティである軍事的要素を批判する作品として従来読まれてきたデュレンマットの『チベットの冬戦争』に対して、作品が書かれた当時のスイスにおける国防をめぐる現実感覚や侵略への危機感という観点からの新たな読み直しが試みられた。キルシュ准教授の講演“Imagining alternative pasts: Imperial nostalgia on Japanese television”は、アジア・太平洋戦争期を扱った近年の日本の単発テレビドラマの分析から、2005年以降のドラマで日本の被害性(victimhood)を強調する描写が強まることや、2010年代のドラマでは日本の帝国主義者の主張を追認する過去描写(満州国における「五族協和」的光景など)が登場することなどへの指摘を行い、ドラマにおける歴史認識が事実性において曖昧化している点や、その一部の表現において過去の実態以上に現在の力学が影響を与えている点に注意を促した。

講演終了後、「他者をめぐる人文学研究会」のメンバーや、大橋完太郎准教授(人文学研究科、芸術学)、市原晋平助教(人文学研究科)ら、オブザーバーを含む参加者の間で各報告に対するコメントや質疑応答が行われた、予定時間を超える活発な議論が交わされた。

大会プログラムはこちらから確認いただけます。

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