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教員から高校生へ

2015年度のエール

『世界』への問いかけを続けること
佐々木 祐(社会学)

神戸大学文学部のある六甲第二キャンパスからは、神戸市全域とその向こうに広がる大阪湾、そしてはるか淡路島までも見わたすことができます。大学までの坂道はやや厳しいものの、それもこの素晴しい眺めで報われようというものです。絶好のロケーションにある我が文学部ですが、ここは第二次世界大戦終了からしばらくのあいだ、占領軍であるアメリカ軍の将校用住宅地「六甲ハウス」として使用されていました(さらに上に位置する神大本部も接収されていました)。当時の航空写真を見てみれば、現在の敷地の構造がかつての軍人居住区のそれを非常によく保存していることに驚かされます。ともあれ、1958年に土地が返還されるまで、日本に住む一般の人々にとってこの眺望を享受することは禁じられていたのです。

神戸大空襲と戦後の復興、六甲山系の土砂を使用した埋め立てや再開発によって急速に塗り換えられていったこの風景は、1995年の阪神・淡路大震災で再び劇的な変化を被りました。神戸大学関係者も含めて多くの犠牲者を出したあの悲劇から20年以上経過した今、眼下に広がる風景は全く新しい様相を私たちに示しながら、現在も刻一刻と変化しつつあります。

こうしてみると、文学部からの眺めという「ただそれだけ」のものの背後に、じつはきわめて重層的な歴史や意味、複雑な構造や動態があることがわかります。一見なんの変哲もないような事物であっても、多様な視点からの「問いかけ」と「読解」を行なうことで、思いもよらぬ相貌をわたしたちに見せてくれるようになります。また、世界のそうした変化を経験したわたしたちもまた、すでにかつての自分とはどこか違った存在になっていることでしょう。

神戸大学文学部における営みも、まさにこうした出会いと相互変容の連続だといえるかもしれません。哲学、文学、歴史学、心理学、言語学、芸術学、社会学、美術史学、地理学といったさまざまな学的視座から、過去から現在にいたる(あるいは、未来にいたる)ひとびとのとりくみに対する問いかけが、日夜続けられているのです。また、そうした試みの過程で顕れてくる「世界」の新たな意味は、さらなる問いへと、わたしたちを誘ってくれます。またこうした発見は、それぞれの学的領域において批判・検証され、より豊かな「知」の共有財産として蓄積され継承されてゆきます。このように、文学部における個別の営みは、きわめて広範な人類の知的作業へと接続されているわけです。そうしてみれば、世界への問いかけというこのとりくみ自体が、本来的な意味における「グローバル」な共同作業にほかならないでしょう。

開放的な神戸大学において世界への問いかけを続けるなかで、全く新しい視野と全く新しい「自分」を獲得すること。そうした作業を皆さんとともに行なうことができれば、と思っています。

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